取材・文:ベースボール・コンパス編集部
写真:本人提供
兵庫県で教員として働く阪神タイガースファンの明田昌裕さん。仕事帰りや休日を中心に甲子園球場で観戦し、座る席は決まってライトの応援席です。仕事カバンにはいつもユニフォームとタオル、そしてメガホンが入っていて、仕事が終わるとそのまま甲子園へ向かうそうです。チケット争奪戦の中で数多くの観戦を可能にしている工夫から、現地観戦でいちばん沸く瞬間まで聞きました!
「弱いから応援せなあかんのや」父の一言でタイガースファンに
──これほど甲子園に通っている明田さんが、阪神ファンになったきっかけを教えてください!
僕は松坂世代なんですけど、子どもの頃の阪神って本当に弱かったんですよ。1985年に日本一になったときは5歳でまだ何もわからず、野球がわかりだした頃には本当に弱かったんです。
でも、家に帰ったらテレビでいつも阪神戦が流れていました。それで一度、父に「なんでそんなに阪神ばっかり見てるの、弱いのに」と聞いたことがあるんですよ。
──子どもながら率直な質問ですね(笑)。お父さんは何と答えたんですか?
「お前はアホか。弱いから応援せなあかんのやろ。強かったら応援せんでもええやろ。巨人みたいに強かったら応援する必要ないやんか」って言われました(笑)。それを聞いて僕は「なるほど」と思い、そこからどんなに弱くてもずっと阪神を応援するようになりました。
仕事カバンに観戦グッズをしのばせて「メシ行こうか」のノリで観戦へ
──小学生の頃から球場にも行っていたんですか?
その頃から甲子園に行っていましたし、阪急西宮スタジアムやグリーンスタジアム神戸(現・ほっともっとフィールド神戸)でも観戦しました。父がチケットを取ってくれて、父の仕事帰りに駅で合流して球場に向かったりしていました。
──その頃から今に至るまで、ずっと観戦に行き続けているんですか?
それが、大学が高知県にあって、友人にも恵まれていい大学生活を過ごしたんですが、不満だったのが阪神戦を家で見られないことと、甲子園に行けないことでした(笑)。なので、ゴールデンウィークやお盆などに帰省したタイミングでは必ず観戦に行っていました。
ただ、当時は高知で春季キャンプをやっていたので、そのためにお金を貯めて中古車を買い、その期間は通い詰めていました。
──学生の頃からキャンプにも通っていたんですね(笑)。社会人になって再び甲子園の近くに戻ってきたのですか?
そうです。勤め先が芦屋で、甲子園がすぐそこだったんですよ。だいたい仕事が終わるのが18〜19時で、当時は当日券がいつでも買えたので、友だちと「メシ食いに行こか」と言うのと同じ感覚で「野球行こか」と言って見に行っていました(笑)。
その後に一度転勤があったんですが、それでも甲子園まで10分くらいなんです。変わらず仕事帰りにすぐ行ける距離で助かっています。

──それはうらやましい環境です! 現地に行くときの持ち物は決まっていますか?
メガホンとタオルとユニフォームですね。メガホンは仕事カバンに入るサイズのものを選んで入れています。暑い日はユニフォームを着るのもしんどいので、Tシャツにすることもありますね。
──あ、仕事カバンに観戦グッズ一式が常備されているんですね(笑)。
そうそう、いつも入っています(笑)。
──ちなみに、現地では誰のユニフォームを着ているんですか?
僕は工藤ですね。2024年の育成ドラフト1位で入った選手なんですけど、キャンプで見たときに「これはすごい」と思って。そうしたら開幕前に支配下に上がり、ドジャース相手に2三振を奪って1回三者凡退に抑え「どこまで行くんやろう」と思いました。今ではリリーフの一角ですからね。
ライト応援席のシーズンシートをシェアし、仕事に合わせて現地で観戦
──今も高い頻度で現地に行かれているそうですね! 甲子園のチケットは争奪戦ですが、どうやって手に入れているんですか?
友人がシーズンシートを持っていて「この日は行けそう」「この日は仕事で無理」と出し合ってシェアしています。シーズンシートを持っている知り合いも自然と増えて、その人たちからもチケットが回ってくるようになりました。だから最近は、自分で一生懸命チケットを取ることはしていないです。
──ちなみに、シーズンシートはどこの席なんですか?
ライトの応援席です。応援団長の目の前ですね。もともとはいろんな席で見ていたんですが、シーズンシートをシェアするようになってからは、ライトでしか見ていないです。
──ライトで見る良さはどんなところに感じていますか?
とにかく盛り上がる一体感ですね。応援はしますけど、毎日となるとしんどいので適当にやっています(笑)。阪神は攻撃中も立たないので楽なんですよ。ただ、9回に大差で負けているようなときは立たされます(笑)。

──応援団長の目の前なのに適当にできるんですか(笑)。応援席で盛り上がる場面を教えてください!
意外と点を取った場面じゃないんですよ。ピッチャーがピンチをしのいだときですね。この間、村上が完封した試合もそうでしたけど、1点差の8回にピンチをしのいだりすると「うわーっ!」って盛り上がります。
──意外です! 阪神ファンの方は押せ押せで行けるときにいちばん沸くのかと思っていました。
もちろんそれもあります。ただ、みんなよく見ているので、ピンチの方が「ここをしのいだらいけるぞ」というのを感じるんだと思うんですよ。7回に工藤が出てきて1点リードを守ったりすると「よっしゃ、行けるぞ!」という空気にがらっと変わります。

試合中は極端な守備シフトに注目。特に横浜は大きく動かしてくる
──試合中に「実はここを見ている」というポイントはありますか?
守備シフトを見ていますね。「1アウト1、3塁なら前進なのかゲッツーシフトなのか」とか。最近だと横浜が極端に寄せるんですよ。森下が打席に立つとセカンドが三遊間寄りに行って、一、二塁間にほとんど人がいません。阪神は2、3歩寄るくらいで、けっこうオーソドックスだなと思って見ています。
──守備の見方が細かいですね!
ただ、横浜は佐藤が打席に入ると一、二塁間にシフトを寄せるんですが、意外と佐藤って広角に打つんですよ。すると、本来ならショートゴロになる打球が外野に抜けることもあるので「これは正しい戦略なのか?」って思うこともあります(笑)。
甲子園は野球観戦を「大衆の娯楽」と捉え、ダイナミックプライシングを使わない
──これほど通っている明田さんが感じる「甲子園の良さ」を教えてください!
庶民的なところですね。球団社長も言っていましたけど、甲子園は基本的にダイナミックプライシングをしないんですよ。野球を家族や友だちと気軽に観に行ける「大衆の娯楽」だと捉えているんです。
──今はダイナミックプライシングを採用する球団が増えていますもんね。甲子園でのイチオシ球場グルメを教えてください!
よく食べるのは「ジャンボ焼鳥」です。昔からあるんですけど、形も大きさもタレも当時とまったく同じなんですよ。変わったのは値段だけです(笑)。今は1本550円とか600円くらいになりました。あとは今季からライトに「日本一の串かつ 横綱」ができたので、そこで買ったりもします。
──座って応援できるぶん、食べやすそうですね。
いや、それが置くところがないんですよ。だからパッと食べられるものか、コップに入っているようなものがいいですね。ライトはギュウギュウなので、普通のお弁当は食べにくいと思います。食べるならアルプスや内野席のほうが全然いけますよ。アルプス席は1席の幅が広くなったので、昔よりも快適になりました。
忘れられないのは9回2アウトからの逆転。現地には、そこでしか感じられない緊張感がある
──これまで現地で見たなかで、忘れられない試合を教えてください!
初めて東京ドームに行った2002年9月15日の試合ですね。ジャイアンツの上原が投げていて、1対2で負けたまま9回に入ったんです。
それで2アウトになったんですが、そこから阪神が1、2塁のチャンスを作りました。そこで沖原が三遊間にヒット性の当たりを打って、2塁ランナーが還ろうとするんですけど、元木と交錯。ボールを持っていなかったので走塁妨害なんですよ。でも、星野監督が抗議したのが実らず、2アウト満塁で赤星に回ったんです。2ストライクと追い込まれていたんですけど、そこから逆転タイムリーですよ。
──9回2アウト2ストライクからの逆転!
「すげえ!」ってなりましたよ。しかも上原からですからね。球場からは見えなかったんですけど、あとでテレビで見たら、ベンチに戻った上原がタオルをかぶって顔を隠していました。
──一発で試合をひっくり返せるのが野球の醍醐味ですよね。最後に、明田さんが思う現地観戦の醍醐味を教えてください!
テレビで見るのでは感じられない、現地ならではの緊張感があるところです。しかも、それを周りのお客さんも同じように感じているんですよ。だから僕は、僅差でリードしているときの守備をいちばん集中して見ています。あの緊張感は、現地じゃないと味わえないですから。



コメント