読売ジャイアンツ スタジアムMC・髙橋大輔が明かす、場内コールに隠されたテクニック。YouTubeチャンネル開設の先に見据える未来とは

読売ジャイアンツ スタジアムMC・髙橋大輔さん

取材・文:ベースボール・コンパス編集部

読売ジャイアンツのスタジアムMCとして、18年目のシーズンを迎えている髙橋大輔さん。日々、東京ドームの空気をつくり続けていますが、その裏側には、数々のテクニックが隠されていました。今年、新たにYouTubeチャンネルも立ち上げた髙橋さんに、東京ドームでの現地観戦がもっと楽しくなるポイントと今後のビジョンを聞きました。

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スタジアムMCは試合前から観客のワクワクを生んでいる

──試合中は誰もが髙橋さんの声を耳にしていますが、試合前はどのような仕事があるのでしょうか?

最初の出番は、試合開始の1時間5〜10分くらい前です。その日のイベントや発売されたグッズを、さまざまな場所でメインビジョンに映しながら話しています。その後、試合開始45分前くらいから「レジェンズシート」というOBの解説が聞けるシートのゲストと掛け合いをし、35分前からスタメン発表。そこから前説をして、選手入場のアナウンスをします。

──試合前も大忙しですね! 準備は何時ごろから始まるのでしょうか?

全体ミーティングが開場の1時間前から始まり、グッズやイベントの原稿はそこで初めて目にします。もちろん台本はありますが、私はお客さんに伝わりやすいよう、自分の言葉にアレンジして紹介します。

──レジェンズシートのゲストとの掛け合いで意識していることも教えてください。

ゲストの方と挨拶してから、ビジョンに映し出されるまでの数分間のアイスブレイクです。この時間が本当に大事です。ちょうどスタメン表が私の手元に来るタイミングで、その時間はまだ場内ではスタメン発表されていません。そのため、お客さんにスタメンが伝わらないように、かつその日の試合につながる掛け合いができるアイスブレイクをしておきます。

たとえば、坂本勇人選手がスタメンに入っていたら「こういう大事な試合はベテランの力も必要になりますよね」と言ってもらうようなイメージです。それでスタメン発表で坂本選手の名前がコールされたら、お客さんが「おお!」と沸いて、ボルテージがより上がりますよね。

読売ジャイアンツ スタジアムMC・髙橋大輔さん

──ジャイアンツの主催試合は地方球場でも同じ演出をされますが、その際に意識していることはありますか?

より丁寧に説明します。「この地で開催するのは◯◯年振りです」「今年のチームスローガンはこれです」「今はこの順位です」「ジャイアンツが点を取ったら応援タオルを回して選手にエールを届けます。持っていない方は今から急いで売店へ。まだ間に合いますよ!」とか。

中には十数年ぶりに来る方や、おじいちゃんおばあちゃんを連れてくる方も当然いると思います。プロ野球を生で観戦できるという貴重な機会を最大限楽しんでもらうことを意識しています。

【必見】東京ドームに行ったら、ここを聞いてほしい!

──試合前から、とてもお客さんのことを考えてMCされているのですね! 試合中のアナウンスで「ここに注目して聞いてほしい!」というポイントはありますか?

いきなりマニアックで申し訳ないんですけど……(笑)。坂本選手がスタメンに入るときって、絶対に盛り上がるじゃないですか。今年のスタメン発表では、まずビジョンに打順の数字が映り、そこから選手の姿が映し出される演出になっています。そこで坂本選手のときは「5番、サード」と言ったあとに0.5秒、ちょっとだけ他の選手より長くためています。

──0.5秒! そんな細かいところまで(笑)。

あと、始球式がない日は、試合前にキャッチャーから順に選手をグラウンドに送り出して、最後にピッチャーが登場します。「ピッチャー、◯◯(選手名)」と言った瞬間に、その選手の登場曲が流れるんですよ。

曲によってイントロの長さは違い、だいたい12〜25秒です。たとえば、戸郷翔征投手の登場曲はイントロが16秒なんです。その16秒の間で、球審から塁審、公式記録員までを紹介し、「それでは、読売ジャイアンツ対◯◯(相手球団)、第◯回戦、まもなくプレーボールです!」と言い切り、ちょうどそのタイミングで歌詞が始まるようにしています。

イントロから歌詞に入る曲が使われているときは毎回これを意識していて、イントロが25秒とか長い選手のときは、あえて審判の名前を2回言ったりして調整しています。

──そうだったんですね! 何回も東京ドームに行っていますが、気がつきませんでした……。

それは、違和感がないから気づかないのだと思います。反対に、歌詞とアナウンスがかぶっていたら気がついていたかもしれません。アナウンスが雑音にならずにお客さんの気持ちがたかぶるのが最も望ましいので、私は気づかなくていいと思っています。ただ、もし気づいてもらえたら「お、イントロに合わせたな!」と思ってもらえたら嬉しいです(笑)。

──さっそく、次の現地観戦から意識して聞きます(笑)。ほかにも仕込んでいるものはありますか?

ジャイアンツが勝った日の「闘魂こめて」ですね。その日のヒーローと一緒に万歳三唱したあとに曲が流れるんですけど、歌詞に入るまでのイントロで、いつもうまいこと言えないか考えています(笑)。

喋る内容も、その日のヒーローに引っかけるんです。2025年6月18日の試合では、丸佳浩選手が決勝タイムリーを打って、西舘勇陽投手が本拠地初勝利を挙げました。さらに、その日はオレンジ色のユニフォームを着て選手がプレーする「橙魂(とうこん)シリーズ」。そこで、丸選手の登場曲である「夜をこえて」と、西舘投手の名前の勇陽(ゆうひ)にかけてこう言いました。

橙魂で連敗脱出。
夕陽(ゆうひ)から夜を超えて連勝へ。
オレンジ色の朝日が昇る。
闘魂こめて!

──ヒーローが決まってから万歳三唱までの短い時間で考えているんですよね! 信じられません……。

それから9回裏に入るときに流れる曲のイントロでも手拍子を煽りながら喋るんですけど、そこでも転調するまでにちゃんと「レッツゴージャイアンツ!」と言い切るようになっています。コメントもその試合に即したものを即興で考えています。そういうところも聞いてもらい、一緒に手拍子で気分が上がってくれたら嬉しいですね。

読売ジャイアンツ スタジアムMC・髙橋大輔さん

18年やっても、まだ「確立できた」とは思えない

──これほどのテクニックを盛り込む髙橋さんは、最初からうまく話せていたのですか?

いえ、今振り返ると、ジャイアンツのスタジアムMCを始めてからも2、3年は独りよがりなアナウンスをしていたと思います。実は、スポーツ現場でのスタジアムMCは、バレーボールが最初でした。当時は「先輩と同じことを言っているのに、なぜ自分のほうが盛り上がらないんだろう」と悩んでいたくらいです。

──それは意外でした。先輩との違いは、何だったんでしょうか。

「自分が盛り上げよう」と思っていたことが、その原因だった気がします。「盛り上げる」という意気込みが、あまり適切ではありませんでした。盛り上げることよりも「どうやったらお客さんに楽しんでもらえるか」を一番に考える必要がありました。

──ご自身のスタイルが確立できたな、と思えたタイミングはありましたか?

いまだに確立はできていないです。

──18年目を迎えてもなんですね。

野球だったら、ホームラン王を取れば正解じゃないですか。たとえどんなフォームでも、結果を残せれば正解ですよね。でも私たちの仕事は正解がありません。ある人が「すごくいい」と言ってくれても、別の人は「嫌い」という評価がある世界です。

だから、そこは割り切ってなるべく多くの方にとって雑音にならずに楽しんでもらい、願わくばプラスアルファになるように、と思って日々喋っています。

──「雑音にならない」というのは、髙橋さんがとても意識されているのだと感じました。

まず邪魔にならないことが大前提だと思っています。ただ、その「邪魔にならない」を実現するのが大変なんです。

読売ジャイアンツ スタジアムMC・髙橋大輔さん

スポーツアナウンサーを知ってもらい、価値を高め、ファンに楽しみを届けたい

──今年、YouTubeチャンネル「野良アナ・髙橋大輔のスポーツアナウンサーのシゴトバ」を開設されました。どのような内容を発信されていくのでしょうか?

スポーツの現場で喋る仕事をしている人にスポットを当てるチャンネルです。スポーツに実況があるのは当たり前だし、最近はスタジアムでアナウンスがあるのも当たり前になっています。

でも、どういう人が喋っているかって、あまりフォーカスが当たっていないと思うんですよね。だから「こういう仕事もプロが喋っているんだ」というのを発信するチャンネルです。

──「邪魔にならないこと」を突き詰めるからこそ、意識されていなかったのかもしれませんね。

そうなんです。スポーツアナウンサーは「表に出る黒子」だと思っています。目立たなくていいし、名前を知られなくてもいいと思っていました。ただ、さっき言ったイントロに合わせたコールの話を知ってもらうと、いつもの観戦にプラスアルファの楽しみが生まれますよね。ずっと黒子のままだと、なかなかスポーツアナウンサーという仕事の価値が認知してもらえません。

だから自分から発信し、お客さんの楽しみを生みつつ、職業としての価値を高めようと思いました。

──確かに今日のお話を伺って、髙橋さんの高度な技術を感じました。YouTubeの活動を通じて見据えているビジョンも教えてください。

YouTubeでは、アシスタントメンバーとしてスポーツアナウンサーを目指す若い子たちを仲間に迎え入れました。そういった活動を通じてスポーツアナウンサーに興味を持つ人が増えれば、この職業が今よりも認知されて、憧れる子や目指す子が増えます。スポーツアナウンサーを目指す人が増えれば、競争が生まれます。競争が生まれればレベルが高くなり、スポーツの現場でファンの人に提供できる体験が向上するはずです。

読売ジャイアンツ スタジアムMC・髙橋大輔さん

──スポーツアナウンサーの価値向上にもスポーツファンの体験価値向上にも、どちらにも貢献できる取り組みですね。改めて、髙橋さんが考えるスタジアムMCの意義を教えてください。

料理で言うと、最後の味付けだと思っています。本当に美味しいステーキができました。お肉の質も焼き加減も完璧です。ただ、最後にかけるソースの味がおかしかったら、全部台無しです。スポーツも同じで、日本一が決まる日本シリーズ第7戦という極上の素材があったとしても、現地でアナウンスがグダグダだった瞬間、空気が壊れてしまいます。

今のスポーツエンターテインメントにおいて、現場のMCも中継の実況も、楽しさを届けるうえでなくてはならない仕事だと思っています。必要だけれど、邪魔してはいけないもの。よくも悪くも、空気を作ってしまうんです。スポーツアナウンサーは、観戦体験を届ける“最後の仕上げ”だと思っています。主役はあくまでも選手やファンの皆さん。最高の脇役として主役を輝かせ、楽しんでいただけるよう精進します。

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