取材・文:ベースボール・コンパス編集部
2021年シーズンから、読売ジャイアンツの場内アナウンサーを務める小倉星羅さん。当時は42年ぶりの採用として注目を集めましたが、高校時代は東京ドームの外野席に通っていた一人のジャイアンツファンでした。そんな小倉さんに、場内アナウンサーの難しさや観戦が楽しくなるポイントなどを聞きました。
▼小倉星羅さんプロフィール
おぐら・せいら╱1986年3月2日、神奈川県生まれ。40歳。千葉テレビ、広島テレビの元アナウンサー。アナウンサーとして野球を中心にスポーツ番組のキャスター、MC、リポーターなど取材を通じて野球の魅力を発信してきた。大学院でジャーナリズム修士課程修了。
・公式Webサイト:https://www.seira-ogura.com/
・Instagram:https://www.instagram.com/seira_ogura/
・X:https://x.com/seiraogura
試合当日は、自作の「ひらがな選手一覧」で備える
──広島や千葉での局アナウンサーを経て、現在はフリーアナウンサーとして活動されていますよね。場内アナウンサーとしては、どのくらいの頻度で活動されているのでしょうか?
週に2〜4日くらいです。一軍から三軍までの試合を4人で回していて、東京ドームだけでなく、ジャイアンツタウンスタジアムなどでもアナウンスをしています。
── 一軍以外のアナウンスも担当されているんですね! 試合に向けて、どのような準備をされているのでしょうか?
場内アナウンサーは、一軍戦ではビジターチーム、二・三軍戦では両チームのスタメン発表を担当するので、相手チームも含めた選手全員の読み方を一覧にした表を作っています。試合前はスタメン表をもらってから発表のアナウンスまで8分ほどしかありません。そのため、フルネームか名字だけか、濁点があるかないかなど、間違えやすいところを準備しておきます。ちなみに、試合のスコアブックの選手名も私だけひらがなで書いています。

ほかには、当日の原稿をもらったら目を通し、読むときに区切る部分に線を引いたりもしていますね。こういった準備は人によって違っていて、それぞれが自分に合った方法を工夫しています。
【小倉さんの試合開催日の1日(18時プレーボールの場合)】
| 時間 | やること |
|---|---|
| 15時前 | 球場入り |
| 15時 | 打ち合わせ |
| 〜16時 | 原稿の読み方チェックなどの下準備 |
| 16時 | 開場後のアナウンス、合間に食事 |
| 試合前 | バッテリー発表とビジターのスタメン発表。その後、控え選手を付箋に書き出して試合に備える |
| 試合中 | 選手交代など進行のアナウンスや、イニング間のアナウンス |
【必見】場内アナウンスに隠された数々のテクニック!
──試合中のアナウンスで、小倉さんがこだわっている点を教えてください!
選手のコールって「1番、センター、丸」のような単語の羅列です。通常のアナウンスと違って「です・ます」や接続詞がないので、どこに要点を置くのかが難しいですね。最初は気合いが入りすぎて全部強く読んでいましたが、今は「1番」は強く、「センター」で下げて、「丸」でまた上げるといったように、際立たせたいところを考えて読んでいます。
──文章のアナウンスとは違う難しさがあるんですね! ほかにも意識していることはありますか?
登場曲です。ファンの皆さんは、私のアナウンスよりも曲に気持ちを乗せたいと思うんです。だから、曲の流れを崩さないように喋っています。たとえば、丸佳浩選手なら歌詞の冒頭の「夜をこえて」を聞いてから入れよう、とか。大城卓三選手の『あとひとつ』のようにゆっくりした曲ならゆっくり、アップテンポな曲なら早めに読んでいます。登場曲は10秒以内なので、その中で言い切るようにしています。
──選手ごとにスピードまで変えているんですね!
日や試合展開によっても変えていて、土日のデーゲームはお子さん連れが多いので柔らかく聞きやすいように読み、ビール半額デーの終盤はにぎやかなので声を張ります(笑)。
──場内アナウンスも球場の空気感に合わせて発声を変えているんですね。
そうですね、代打のときはファンの方々が最もアナウンスに耳を傾ける場面だと思っているので、特に意識しています。通常は登場曲が先ですが、代打のときは「◯◯に代わりまして、代打、◯◯」と言ってから曲が流れます。なので、球場が盛り上がる坂本勇人選手のときは「代打」と「坂本」の間を少しためて喋ったりします。みんなのドキドキ感やワクワク感をつくるには、間がとても大事です。
最も難しいのは選手交代。慣れるまでに1年以上もかかった

──場内アナウンスで最も難しい場面を教えてください!
交代がたくさんあるときです。次のイニングが始まるまでに読み終えなきゃいけないので、ピッチャーを含めて5人交代とかになると本当に大変です。
複数の選手が交代するときは、ピッチャーの名前を読んだタイミングで登場曲が流れます。そのため、ジャイアンツでは必ずピッチャーを最後に読むんです。たとえば6番にピッチャーが入る場合でも、ほかの交代を全部言ってから、最後に「ピッチャー、○○」と読みます。1年目の頃はピッチャーを先に言ってしまうこともあり、猛特訓しました(笑)。
今でも、監督が審判に交代を伝えているときは緊張します。審判からアナウンス室にかかってくる電話を受けられるのは私だけなので、聞き間違えたら球場の全員に間違いが伝わってしまいます。
──審判から伝えられた一瞬でアナウンスしなくてはいけないですもんね……。
今なら「この選手がヒットを打ったら代走が出るな」と予想できますが、最初はその試合勘がありませんでした。1年目の一軍に上がってすぐの頃、大量交代で1人飛ばしたまま読み終えてしまい、その回を始められなかったこともありました。落ち着いてアナウンスできるようになったのは、2年目くらいからでしたね。
42年ぶりの採用には、計り知れないプレッシャーがあった
──場内アナウンサーとして6シーズンを終えましたが、そもそも応募したきっかけは何だったのでしょうか?
高校生の頃からジャイアンツが好きで、東京ドームの外野席にずっといたんです。それから『ズームイン!!サタデー』を見てアナウンサーを目指し(笑)、野球に携わりたくて、プロ野球球団がある広島の放送局に就職しました。
その後、東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会で働き、「大会が終わったらどうしよう」と考えていた2020年の冬に場内アナウンサーの募集を見つけたんです。「自分の声で、また野球に携われるかもしれない」と思って応募しました。
──当時は42年ぶりとなる場内アナウンサーの採用でした。合格したときの心境を聞かせてください。
本当にびっくりしました。アナウンサーだったとはいえ、場内アナウンスは素人なので「ここから頑張らなきゃ」と気が引き締まりましたね。特に球団旗の前で写真を撮ったときはとてもプレッシャーを感じました。
それに、合格がすぐネットで報じられたこともあり、ものすごく連絡がきたんです。野球に携わりたくて受けたものの、それを見てさらに緊張感が高まりましたね。
──40年以上アナウンスを続ける渡辺三保さんや山中美和子さん(2021年シーズンで引退)という大先輩がいた中で、そこから一軍デビューまではどんな道のりでしたか?
1年目は先輩が横についてくださり、二軍でOKが出たら一軍戦という流れで、4か月くらい経ってデビューできました。最初は「野球を知っているし大丈夫だ」と思っていたんですが、やってみたら全然できなくて……。
1年目を終えた後のオフシーズンには、2年目に向けて頭を整理する時間もつくりました。そのなかで、ひらがなの選手一覧を用意するなど、少しずつ自分なりのルーティンを見つけて今の形になっています。
「東京ドームに来たな」と思ってもらえる“声”になりたい

──これまで場内アナウンスをしてきた中で、忘れられない試合を教えてください。
2026年5月13日、福井で坂本選手が通算300号をサヨナラホームランで飾った試合です! サヨナラの試合は、終わった瞬間に勝ち投手などをアナウンスするので、すごく緊張するんです。
300号達成時のアナウンスは残り2本くらいから準備していたんですが、球場全体が大興奮の中で読んだら、私もテンションが高い声になってしまい……。「そこは冷静に喋るべきだったな……。ニュースでずっと使われる場面じゃん……」と反省しています(笑)。
──それほど熱狂していたということですね! 小倉さんが感じる現地観戦の醍醐味はなんでしょうか?
一体感ですね。それから、ブルペンや試合前のキャッチボールなど、見たいところを自分で選んで見られること。負けた試合さえ思い出になるのも、現地ならではだと思います。ファンのみなさんは何か月も前から予定を調整しているので、その試合を大切にしたいなと思って、日々アナウンスをしています。
──最後に、小倉さんが考える場内アナウンスの価値を教えてください。
観客にとっては違和感がなく、それでいてなかったら困るもの、でしょうか。審判の方もアナウンスを待ってくれていて、私たちが喋らないと試合が進みません。だからこそ、球場の空気を崩さずに声を乗せることを大切にしています。
女性がこれほど野球の試合進行に携われる仕事はなかなかないので、とても緊張感をもって望んでいます。私自身、野球が好きだったからこそ、アナウンサーという仕事に出会えました。女性が担っているポジションであることの意味を考えながら、優しく、耳障りの良いアナウンスを心がけています。大先輩の三保さんのように「東京ドームに来たな」と思ってもらえる、安心感のある声になれたらうれしいですね。
ベースボール・コンパスでは、小倉星羅さんとともに東京ドームを声で支えているスタジアムMCの髙橋大輔さんのインタビュー記事も公開しています。ぜひ、こちらも読んでみてください!



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