取材・文:黒河内 恵美
2026年8月、野球の現地観戦をもっと楽しくするWebメディア「ベースボール・コンパス」を立ち上げた田中凌平。背中を押したのは、2026年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での敗戦と、その3か月後に訪れたサッカーワールドカップの熱狂でした。日本の野球は世界一になれる実力がありながら、あの熱量には届かない──。その悔しさが、田中を動かしたといいます。なぜ一人のファンから野球観戦の魅力を伝える側に回ったのか、これから何をやっていくのかを聞きました。
「球場に行きたくなる」ためのコンパスでありたい
──まず、「ベースボール・コンパス」という名前にはどんな意味が込められているんですか?
コンパスは方位磁石が由来です。読者のみなさんを球場に導いてくれるものにしたいという思いを込めて、この名前にしました。
──ベースボール・コンパスは、どんな目的で立ち上げたメディアなのでしょうか?
このメディアの記事を読んでくれた人が、もっと現地観戦を楽しめるようになることです。いつも現地で試合を観ている人が「こんな楽しみ方もあるんだ」と気づいたり、まだ行ったことがない人が「初めて行ってみようかな」と思ったりするきっかけになりたいと考えています。
──扱うのは12球団すべてですか?
そうです。全12球団を取り上げます。僕は東京に住んでいるので、普段は都内の球場に行くことが多いです。たまに遠征で関西とか他の地域の球場に行くとなると「どんな球場グルメがあるんだろう」「あそこってペットボトルの持ち込みOKだったっけ?」など、意外と知らないことだらけです。そういうところまで網羅できるように、12球場を満遍なく紹介したいと思っています。
──ベースボール・コンパスでは、どんな企画を考えていますか?
1つは、球場で働いている人たちへのインタビュー企画を考えています。スタジアムMCやチア、応援団、各球団の職員の方々など、それぞれがプロフェッショナルを発揮した結果、球場の盛り上がりが生まれています。
「球場で輝いているのは選手だけじゃないんだ!」と知ってもらえたら嬉しいです。それを知ると、次に球場へ行ったときに見るところが増えて、観戦がもっと楽しくなると思います。
──他に楽しみな企画はありますか?
「観戦ガチ勢インタビュー」です。この企画は、観戦が大好きな人に現地でのこだわりをとことん語ってもらうものです。すでに何人かにインタビューをしましたが、みんな特徴的なこだわりがあってとても面白いです。
続けてきた現地観戦が、メディアの原点になった
──もともと現地観戦はよくされていたんですか?
小学生の頃から父親と東京ドームで試合を観ていましたし、現地観戦は趣味でずっと続けています。大学2年のときには、留学中にボストンでレッドソックス対レンジャーズの試合を観て、初めてのメジャーリーグにすごく感動しました。
僕は海外旅行が好きなので、その後もアメリカに何度か行って、ニューヨークでヤンキース、LAでエンゼルスとドジャースの試合も観戦しました。屋外球場でカラッとした気候の中、フレンドリーな人たちと一緒に盛り上がるのはメジャーならではの魅力で、本当に楽しいです。
ただ、メジャーには日本のような応援歌や応援団といった文化がありません。たまに選手のコールが自然発生的に起こるくらいです。日本の野球にはイニング間の演出があって、応援団がいて、球場全体で声を合わせます。メジャーにはメジャーの、日本には日本の楽しみ方がありますが、海外の球場に行ったことで自分が好きなのは日本の球場の空気なんだと気づきました。
──そこから「メディアを作る」まではどうつながっていくのでしょうか?
日本は2023年のWBCで世界一になっています。実力も世界のトップに立てるレベルですし、球場の空気感や盛り上がり、演出もどこにも負けていないと思っていました。
そんな中で2026年のWBCでは、準々決勝でベネズエラに敗れてベスト8に終わりました。あのときの球場は、ベネズエラファンの熱気に完全に飲まれていましたよね。いちファンながら本当に悔しかったです。
その3か月後にサッカーのワールドカップがありました。サッカーも面白いですし、日本代表はどんどん強くなっているので盛り上がるのはわかります。ただ、試合がある日は一日中どのチャンネルをつけてもワールドカップの番組が流れているのを見て、WBCはそこまでじゃなかったなと思いました。
サッカーがダメだとか、そういう話では一切ありません。ただ、世界一になれる実力があって大谷翔平選手のような世界的なトッププレイヤーもいる野球が、なぜワールドカップほど盛り上がらないんだろうという思いが残りました。
──そこで「自分にできること」を考えたわけですね。
そうです。僕も中学高校と野球部でしたが下手くそですし、プロになれるような選手じゃありませんでした。そこで、大好きな日本の野球を世界一にするために自分に何ができるんだろうと考えたときに、これまでライターとして積んできた取材や編集のスキルが浮かびました。
メディアを作ってファンの熱量をもっと高め、あのベネズエラファンの熱狂的な応援にも負けないくらいの熱量を生み出せれば、それが選手の後押しになって、世界一に貢献できるんじゃないか──。それが今の自分にできることかなと思いました。WBCとワールドカップ、あの2つが重なって「本当に何かしたい」という気持ちになりました。
球場にいるみんなで、あの空気を作り上げている感じが好き
──田中さんが感じている現地観戦の魅力はどこにありますか?
野球は、一試合観るだけでも感情の起伏が大きいスポーツです。応援している選手がホームランを打ったときの喜び、サヨナラ勝ちしたときの感動、ピンチを迎えたときの緊張感と切り抜けたときの安堵感。これまで数えきれないくらい観戦してきましたが、いまだに落ち着いて観ていられません。
現地観戦ではそれを生で感じられるうえに、周りとも共有できるのがいいところです。まったく知らない人でも、同じチームのファンなら一緒に喜んだり悔しがったりできます。ああいう空気感が好きです。
──その空気は、やはり球場にいる人たちが作っているものなんですね。
そうです。スタジアムMCの方が声のトーンで観客のボルテージを上げてくれたり、応援団の方が「ここでチャンステーマいくか」と盛り上げてくれたりします。野球そのものだけじゃなく、球場にいる人みんなで作り上げている感じが、めちゃくちゃ好きです。中継には中継の面白さがありますが、あの空気は球場に行かないとわからないものです。
プロ野球の球場を、毎日満員にしたい
──このメディアを通じて、球界をどうしていきたいと考えていますか?
まずは全球場を満員にしたいです。現地観戦の良さを知ってもらって、みんなの熱狂を高めたいと考えています。それが選手の後押しになったり野球人口の減少を止められたりと、いろんなところに効果は生まれてくると思っています。毎日満員の球場でプレーできることは、選手のモチベーションにもなるはずです。
──読者の方には、どうなってほしいですか?
現地観戦にハマってほしいです。ハマると、人生が楽しくなると思っています。「今日は野球を観に行くから仕事を頑張る」でもいいし、「あの球場に行くために頑張る」でもいいです。そういうものがひとつあるだけで、毎日の充実感と幸福感が大きく変わってきます。何かにとことんハマっている人は意外と少ないと思いますが、このメディアを読んでどっぷり現地観戦にハマってくれたら、絶対に人生楽しくなるはずです。
──最後に、読者へのメッセージをお願いします。
野球観戦は、選手のプレーはもちろんですが、それ以外にも見どころがたくさんあります。「観戦ガチ勢インタビュー」で観戦好きの方に話を聞いていると、みなさんそれぞれ違うところを見て楽しんでいるんです。それを読むと「次にこの球場へ行ったらここを見てみよう」「これを食べてみよう」がどんどん出てきます。そういう目当てをひとつでも増やしてもらえたら嬉しいです。
そして「自分にはこんなこだわりがある」という方は、ぜひ「観戦ガチ勢インタビュー」を受けてほしいです。SNSのDMからご連絡いただければ、お話を聞きに行きます!
このメディアが一方的に発信するのではなく、野球ファンみんなで作っていきたいです。「こんな情報があるよ」「ここが楽しいよ」というのをどんどん共有して、一緒に盛り上げていけるメディアにしたいです。


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